地域栄養ケアPEACH厚木  代表 江頭文江さん

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宮崎:
はじめまして。ここで江頭さんを紹介できることは凄く光栄で感謝します。今日はよろしくお願いいたします。早速ですが今のお仕事について教えてください。

江頭:
フリーランス管理栄養士3名とともに、地域の中で、在宅訪問栄養指導や診療所での外来栄養指導、小児科医院での離乳食教室、保育園での食育活動、薬局での栄養支援、介護保険施設等での栄養ケアサポート、地域住民または医療福祉関係者へ栄養・食支援に関する企画・実施などを行っています。

宮崎:
フリーで活躍する管理栄養士ってまだそんなに多くないと思うのですが、そもそも管理栄養士になろうと思われたきっかけってなんですか?

江頭:
もともと目指したきっかけは、学校栄養士です。さまざまな生活背景、環境の中で、食へのこだわりや意識は千差万別ですが、子どもたちの成長とともに「食を楽しむ、おいしく食べる」ということを共有し伝えたかったからです。でも、ある恩師の言葉をきっかけに就職は病院となり、その後嚥下障害に出会うことで、どっぷりと臨床栄養に浸かっています。

宮崎:
なるほど。恩師との出会いが大きいわけですね。具体的には?

江頭:
そうですね。病院では乳幼児から高齢者までさまざまな世代に対するアプローチがあること、疾病に対する栄養ケアが学べるということは、今後健康な方からそうでない方まで幅広く対応できるスキルを身につけることができるのではないかと思ったからです。

宮崎:
今や『在宅で嚥下と言えば江頭』っていうくらい有名ですが、どうやってキャリアアップしてこられましたか?

江頭:
嚥下に関して取り組み始めたのは、病院栄養士2年目のときです。きっかけは同期から「何か一緒に研究をしないか」という誘いからでした。当時病院では嚥下食への取り組みはなされていましたが、まだまだ給食管理からの視点が大きい中で、患者視点でもっと多職種とともに作りあげることができないかと思うようになりました。最初は嚥下食の研究にはじまりましたが、嚥下食の仕組みや段階食をととのえることだけではなく、個々の機能に合わせることが必要だと認識し、STに同行し嚥下評価をしたり、食事介助にも積極的に関わり、耳鼻科のopeを見学したりと、幅広く学ばせていただきました。その後は現在の在宅支援を行うようになり、一人での単独訪問を充実させるために、多くのセミナーなどに参加し、スキルアップしています。

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  • デイサービスで口腔ケアの指導シーン

宮崎:
忘れられないエピソードとかありますか?

江頭:
嚥下食の研究では、その食形態を客観的に評価するために物性評価を行いました。咀嚼に関する研究ではすでに多くみられていましたが、嚥下食に関するものは初めてだったと思います。卒業した大学に通ったりする中で、栄養科でも測定機械を購入していただき、遅番が終わった20時過ぎからとろみ茶に関する測定を開始し、翌朝3時まで行って、仮眠をとって早番で出勤したことがあります。現場の疑問を数値化してエビデンスをとっていく作業でしたので、大変でしたけど、とても楽しかったです。トロミ茶は濃度が濃いとむせないかもしれないけれども、口腔や咽頭残留につながる、と認識したのもこの時期です。病棟での食事介助で、べたべたのとろみ茶をみて、翌日にお茶ゼリーを誕生させたのもこういった研究からの視点です。課題が見つかればできるだけ早急に解決させる!この積み重ねが「嚥下食の仕組み」として整っていったのではないかと思っています。

宮崎:
そんな病院を辞めて在宅に行かれたわけですね。

江頭:
もともと、病院栄養士時代から在宅医療に関心がありました。せっかく食べられるようになった患者さんたちが誤嚥性肺炎で再入院しないように、なんとか在宅環境を変える、「口から食べる支援」に関する情報を伝えることができないかと思ったからです。ただ実際に在宅の現場に入ると、そこは病院とは全く異なる環境で、試行錯誤している患者さんやご家族の姿がありました。

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  • 訪問栄養指導での会話シーン

宮崎:
でも、いきなりフリーというのも勇気がいったのではないですか?

江頭:
そうですね。確かにそうなんですが、どちらかというとフリーになったことより、病院を退職したことの方が大きかったですかね。実は、聖隷時代とてもお世話になった藤島一郎先生が日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の大会長を務める年だったことと、病院という環境がよかったためです。辞めた後は、フリーもひとつの手段かなって感じでしたよ。嚥下と在宅やろうって決めたときには、組織に縛られることなく、この方法が一番かなって思いましたから。

宮崎:
男前ですね!(笑)今後の課題というかビジョンを教えてください。

江頭:
今、神奈川県のいくつかの市町村に跨いで訪問栄養指導の仕組みを作らせていただいているのですが、市町村が異なれば、そこの土地柄や医師会などの仕組み、想いなどが異なり、少々形が異なります。これが実は面白いなーっと思っていて、全国で、悩んでいる訪問管理栄養士の仕組みづくりのヒントとして、何か伝えてあげることができるんじゃないかなと思っています。地域が異なるからできない、ではなく、できる術を探す、ということです。こうやって私たち自身の活動を積み重ねていくことが、訪問栄養士ネットワークのように広がり、在宅での栄養支援が当たり前の世の中になればいいなと思います。そのために、PEACH厚木は、しっかりと実績を出さなければならないのだと思っています。

(*)訪問栄養士ネットワークとは、訪問栄養指導を実践する又は関心のある管理栄養士が、情報交換を目的に定期的に集い、情報交換している団体です。フリーや診療所などで活動しているものも多く、病院栄養士とはまた異なる視点での課題や取り組みがみられています。

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■訪問栄養士ネットワークの交流会で弊社の管理栄養士と江頭さん

宮崎:
いいですね。『フリー』についてはいかがですか?

江頭:
管理栄養士の職域は、病院、施設、事業所(産業)、保育園や学校、スポーツ分野、公衆衛生など非常に広くあり、赤ちゃんから高齢者、予防から治療まで、さまざまな分野で活躍できると考えています。フリーランスも増えてきていますが、フリーランスとして活躍するためには、自分の専門をしっかりともち、かつその幅を広げていくことが必要です。管理栄養士としての専門性はもちろんのこと、地域での発信力や対象者に合わせたコミュニケーション力など、多くの力を発揮して、活躍できる、そんな未来がくるといいなと思います。もっとフリーランスが増え、お互いの強み弱みを補うために、交流できる場ができるといいですね。

宮崎:
最後、若い管理栄養士へアドバイスするとしたら?

江頭:
「食べることは好きですか?」学生さんや若い管理栄養士さんには、必ず問うています。栄養評価、栄養管理、経管栄養・・・。給食管理をやっていた時代からみれば随分管理栄養士の業務は変わりました。でも、結局のところ「食支援」という形で落とし込めるのは、管理栄養士や栄養関係者だけであり、他職種にはまねできない部分です。きちんとした専門的評価のもと、低栄養、嚥下障害、褥瘡、慢性疾患、がんなど、栄養に関する課題が見つかれば、それを改善すべく「食支援」の視点で、最善をつくしてほしいなと思います。低栄養だから、簡単に栄養剤を追加!だけではなく、自分なりの味のある支援をしていきたいですね。食支援には、「デジタル的視点」だけではなく、「アナログ的視点」もとても大事な要素です。普段の仕事以外にも、多くのことに関心を持ち、自分自身の幅を広げ、人として成長していってほしいと思います。

宮崎:
ありがとうございました。

 

江頭文江

福井県生まれ
1992年 静岡県立大学短期大学部食物栄養学科 卒業
同年        社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院栄養科 勤務
1999年 ピーチサポート 代表
2003年 地域栄養ケアPEACH厚木 代表

*所属学
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 評議員
日本褥瘡学会関東甲信越地方会神奈川県支部世話人
日本栄養改善学会、日本静脈・経腸栄養学会
神奈川摂食・嚥下リハビリテーション研究会世話人、神奈川PDN世話人
全国訪問栄養食事指導研究会、訪問栄養士ネットワーク 

【著書】
「チームで実践 高齢者の栄養ケア・マネジメント」(著) 中央法規出版
「在宅生活を支える!これからの新しい嚥下食レシピ」(著) 三輪書店 など多数

【受賞】
1, 第27回 神奈川県栄養改善学会賞(2003年)
2, 第32回 神奈川県歯科保健賞(2006年)
3, 第76回 日本栄養改善学会奨励賞(2010年)